東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)44号 判決
一 請求の原因1ないし3の事実に関しては、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。
(取消事由(一)について)
成立に争いのない甲第一号証(審決)によれば、審決は、まず、本件登録実用新案の考案の要旨を請求の原因2記載(「実用新案登録請求の範囲」の記載と同じ)のとおりのクリスマス用装飾電灯とし、その構成要素の一つである「凹所」の構成に関しても右記載のとおり「上記凹溝内面にコードと端子板との接続部における突出部を収容する凹所を上端から下端にわたつて設けた」構成と認定しているものの、本件考案のクリスマス用装飾電灯と第三引用例(イタリー国特許第七九七八八四号公開明細書)の電球ソケツトとの構成を対比検討するに際しては、「甲第三号証(本訴甲第五号証、第三引用例)の湾曲した内壁は、一見、本件登録実用新案の凹所に相当するようにみえるが、甲第三号証の湾曲した内壁はコードと端子板とを圧接するものであるのに対し、本件登録実用新案の凹所はコードと端子板との接続部における突出部を余裕をもつて収容するものであるから、全く相違する。」と記述(二丁裏一二行ないし一八行目)し、さらに、第四引用例(実願昭四五―六三九五〇号)の装飾用豆電球の端子取付装置との相違点の指摘に当つては、「(2)コードの配置及び状態が、前者(本件考案)は凹所に余裕をもつて収容されるのに対し、後者(第四引用例)の折返し後のリード線は主柱部と端子鈑間に弾力的に挾持される一方、後者(第四引用例)の折返し前のリード線は凹条溝に単に配置される点。」(四丁表下から三行目ないし同裏二行目)と説示していることが認められる。
この点、原告は、右の「凹所」の構成に関しては、本件「実用新案登録請求の範囲」及び「考案の詳細な説明」には、何ら「余裕をもつて」なる文言の記載はないから、本件考案における「凹所」は、端子板に接続した裸線接続部の突出部を収容しうるものであれば足り、その納まり方が、緩いか、きついかは問うところではないと主張し、審決が、本件考案における凹所は前記のように余裕をもつて収容するものであると理解したことが誤りであると主張する。
しかしながら、のちに引用する本件考案の詳細な説明の記載(成立に争いのない甲第二号証――本件実用新案公報。)、殊に、本件考案の作用効果に関する記載に徴すると、原告主張のように、本件考案における「凹所」として、突出部を収納するのに、その納まり方がきついような場合をも含めて考えることは、不自然といわざるをえない。たしかに、本件考案に関する明細書には、凹所の構成に関し、「余裕をもつて」収容する凹所とする旨の直接の記載は見当らないが、前掲甲第二号証によれば、「考案の詳細な説明」の項には、本件考案の目的ないし作用効果に関する次の如き記載が認められる。
即ち、「本考案はクリスマス用装飾電灯に関し、その目的とするところはケースの凹溝に嵌挿される端子板に接続されたコードの裸線接続部の逃げをケース内面に形成することによつて、端子板が凹溝内にスムーズに嵌挿されるようにし、しかもその裸線接続部が端子板の嵌挿時に凹溝内面によつてなんら悪影響を受けないようにしたクリスマス用装飾電灯を提供するにある。」(本件実用新案公報第一頁一欄一六行ないし二三行目)とする本件考案の目的に関する記載に加えて、さらに「上記ケース6の凹溝内面にはその上端より下端に凹所6a、6aが設けられ、これに端子板4に接続されたコード5の裸線接続部の突出部5aが挿入されるようになつている。」(同公報第一頁二欄一行ないし五行目)なる記載や「ケースに設けた端子板挿入用の凹溝内面より一部切込んで凹所を設けたから、端子板に接続した裸線接続部のもり上がつた部分は凹所内に収容されてしまうため、端子板を凹溝に嵌挿するときに、その接続部のもり上がつた部分がでつぱつて凹溝内面に突かかるおそれがなく、したがつて端子板の嵌挿が上端から下端にかけて極めてスムーズに行え、その作業性が向上化される。また接続部のもり上がつた部分は凹所内に収容されて嵌挿されるため、そのもり上がり部分が凹溝内面に突き当つてその接続部に無理な圧力が加わり、その接続部に悪影響つまり捩り止め接続をした端子板を挿入する場合に凹溝内壁面にひつかかつて捩り止めの離脱を来たすこともない。」(同公報第一頁二欄二六行ないし第二頁三欄二行目)との記載がある。これら本件考案の目的ないし作用効果に関する明確な記載内容によれば、本件考案の要旨中の「接続部における突出部を収容する凹所」の意味は、端子板をケースに設けた端子板挿入用の凹溝に嵌挿するときに、端子板に接続した裸線接続部のもり上がつた部分(突出部)が、これに収容され、凹溝内面に突き当つたり、あるいは突つかかつたりすることなく、端子板の嵌挿を上端から下端にかけてスムーズに行うことができるようなものと理解することは、きわめて自然である。のみならず、この種クリスマス用装飾電灯の製作にあたつては、凹溝における凹所の形成及び端子板への裸線の接続が必ずしもすべての製品について精密工作物の如く寸分の違いもない規格化したものとしてつくられることは期待できないし、またその組立てに際しては当然迅速が要求されるところであるから、本件考案の「凹所」を、その内面に裸線接続部のもり上がつた部分が突つかかるおそれがあるような、右部分がきつくすれすれに嵌挿される如き構成とすることはほとんど考えられず、むしろ、その間に若干の余裕(小型なら小型なりの)をもたせるように、凹所の幅と深さを構成するものと考えるのが普通であり、技術常識というべきである。
要するに、審決が「凹所」の構成を、第三引用例の「湾曲した内壁」及び第四引用例の「凹条溝」と対比するにあたつて、「凹所」は、接続部における突出部を「余裕をもつて」収容するものであると説示したことは、「凹所」の意味を説明した以上に出ず、考案の要旨にない限定を付したものではなく、誤りはない。
この点の原告の主張は失当である。
(取消事由(二)について)
成立に争いのない甲第五号証(イタリー国特許第七九七八八四号公開明細書――第三引用例)によれば、第三引用例には次の構成の電球ホルダ(別紙図面(〔編註〕以下省略)(二)参照。)についての記載が認められ、かつその各構成部材は、以下括弧内に併記した本件考案における部材に対応するものとみることができる。即ち、管体57(ケース6)の内側面に設けた座部に上端から下端にわたつて二個の湾曲した内壁を形成し、この湾曲した内壁に、導線51(コード5)の裸端部51a(裸線13)を通過させるための孔60を具えた二枚の金属製薄板59、59(端子板4、4)を内装し、この薄板間に、小電球53(小電球1)を支持し、そのフイラメント端部54(導線7)を外面に支持したソケツト55(支持部材3)を挿入することによつて、フイラメント端部54(導線7)は、金属製薄板59(端子板4)に、金属製薄板59(端子板4)は、導線51(コード5)の裸端部51a(裸線13)に押付けられ、さらに裸端部51a(裸線13)は、湾曲した内壁に押付けられ、これによつて、フイラメント端部54(導線7)と導線の裸端部51a(裸線13)とを金属製薄板59(端子板4)を介して電気的に接触させる構成の電球ホルダについての記載がある。
右の記載から明らかな如く、第三引用例の構成にあつては本件考案の端子板4に相当する金属製薄板59は、本件考案のように、ケース6にあらかじめ特に設けられている端子板挿入用の凹溝内に、その位置を規制された状態で嵌挿されるものではなく、管体57に設けた座部の湾曲した内壁のスペース内に、単に自由な状態で挿入されるのみであり、ソケツト55が挿入されることによつてはじめて、金属製薄板59が裸端部51aに押付けられ、裸端部51aは、さらに薄板59と湾曲した内壁面との間で加圧状態で挾まれ、それぞれの導体部材の位置が固定するとともに、電気的接触が得られるものである。
したがつて、第三引用例における「湾曲した内壁」は、ソケツト55が挿入されたときに導線51の裸端部51aと接触し、薄板59と裸端部51aとを圧接させる機能をもつと同時に、その内壁部は、圧接された薄板59と裸端部51aの単なる配置部分として構成されているものと理解される。
そうすると、第三引用例においては、薄板59の中央通路―孔60に挿通された導線と薄板との接触個所を本件考案の「コードと端子板との接続部」と同じようにみることは困難であり、また、本来本件考案におけるようなコードと端子板との接続部における「突出部」なるものは存在しないものとみるのが相当であるし、裸端部51aと薄板59の中心通路60との接触部分が、その薄板59の内装にあたつて、座部に突き当ることを危惧する必要は考えられないのである(たとえ、突き当つたとしても、薄板は、直ちにその位置をかえうるものである。)。したがつて、本件考案の凹所の如き突き当つたり、ひつかかることを防止するための逃げの構成を考える必要はもともとないものとみるべきである。
以上のとおり、第三引用例における座部に形成された「湾曲した内壁」が裸線接続部の逃げの機能を有する旨の原告の主張には、首肯しえず、第三引用例には、本件考案の如く「凹溝内面にコードと端子板との接続部における突出部を収容する凹所を上端から下端にわたつて設ける」ことによつて、端子板を極めてスムーズに挿入できるようにするという技術思想が開示されているとみることはできない。
そうすると、第三引用例記載の技術内容についての審決の理解には、何ら誤りはない。
(取消事由(三)について)
成立につき争いのない甲第六号証(本出願前の昭和四五年六月二六日付出願にかかる実願昭四五―六三九五〇号実用新案登録願――第四引用例)によれば、先願考案に関する明細書の「実用新案登録請求の範囲」の記載は次のとおりであることが認められる。即ち、「ソケツト部4に形成しているハスク体の受溝5の両側に設けた端子嵌合溝5′の中央に、端子没入用凹条溝6を切削し、この嵌合溝5′中に弾性を有する端子鈑8を嵌挿し、受溝5部の両端子鈑8の間に、嵌合主体部1′の両側にリード線3を折返してなるハスク体1を差込んでなる装飾用豆電球の端子取付装置。」(別紙図面(三)参照。)
しかしながら、右先願考案の「実用新案登録請求の範囲」には、端子鈑8と電線10との接続及び該接続部の収納についての記載はない。さらに、先願考案の明細書の記載を検討しても、「考案の詳細な説明」の項には、「本案は、ハスク体により押圧される如くした端子鈑を端子嵌合溝の中央に切削した凹条溝中に弾力的に屈曲没入し得る如くしたことにより、ハスク体の嵌合時においてこの嵌合主柱部の両側に折返した豆電球のリード線の径に応じて拡がり得るため、該リード線に無理を来たすことなく、しかも嵌合後において端子鈑の弾性が復元状の働らきをなすため確実に接続が行なわれるとともに、嵌合主柱部もよく挾持される効果がある。」(第三頁九行ないし一七行目)との右「実用新案登録請求の範囲」に記載された構成に対応した作用効果に関する記載があるのみで、端子鈑8と電線10との接続部に関しては、「電線10の先端を端子鈑8の基部に有する係止溝9に引掛けて絡らみ接続するもの」(第二頁一三行ないし一五行目及び第六図)との記載や同旨の記載があるほか、取消事由(一)につき認定した本件考案における接続部の「突出部」と「凹所」との関連にみられる如き、凹条溝6と相互に関連するような作用効果に関する記載は、何ら見当らない。
右の如き先願考案の明細書の記載内容に徴すると、先願考案における凹条溝6と端子鈑8と電線10との接続部との関連構成に関する事項を先願考案の要旨の一部と認定することができないことは明らかである。
したがつて、本件考案と第四引用例の先願考案とは同一ではないとした審決の判断は、正当であつて何ら誤りはない。
なお、先願考案の明細書における「考案の詳細な説明」の記載ならびに図面全体を通してみると、原告の主張するように、端子鈑を挿入する時点においては、凹条溝6は、端子鈑に絡らめた電線の基部の逃げの機能を果す結果になると解しえないことはないとしても、このことは、先願考案の要旨と関係のない事項であるから本件考案と第四引用例の先願考案の同一性に関する前記判断を左右するものではない。
三 以上のとおりであつて、本件登録実用新案は、実用新案法第三条第二項および同法第七条第一項の規定に違反して登録されたものでないとした審決は、正当であり、違法の点はないから、その取消しを求める原告の本訴請求は、失当として棄却することとする。
〔編註〕 本件考案の要旨は左のとおりである。
コードに接続された端子板を内装する凹溝を設けたケースに対して、電球を支持し、その導線を上記の端子板に接触させるように笠付きの支持部材を嵌合するようにしたものにおいて、上記凹溝内面にコードと端子板との接続部における突出部を収容する凹所を上端から下端にわたつて設けたことを特徴とするクリスマス用装飾電灯